すごーく、悲しい。
母はバイオリン教師だ。
親友と2人で子供のためのオーケストラをつくった。
年一回の公演と、公演のための練習合宿を行う。
その大事な合宿が昨日から始まるというので、母は、どうしても参加するといってきかなかった。
合宿は2泊3日だから、真ん中の1日だけ参加しよう。
練習をみにいこう。
でも、泊まるのは無理だよ。
「どうして無理なの?」
お母さんを介助する人が必要だからだよ。私は泊まれない。
「大丈夫よ。自分のことは自分でできるから」
自分の現状を把握できないのも高次脳機能障害のひとつ。
精神的に受け入れられないのではなく、理解できない。
まだ歩けるし車の運転くらいはできると思っている。
バイオリンも弾けると思っている。
・・・でもトイレには介助がいるでしょう?
「そうね、ちょっと手伝ってもらわないといけないけど、それくらい、誰かにやってもらうわよ」
それは無茶だろう。
というのがわからないのも障害なのだろう。
こういうとき、いつもは話題を変えて気を逸らしてしまうのだが。
今回はしなかった。
初めて真正面から向き合った。
分かってもらわないといけなかった。
なんとか理解してもらわなければいけなかった。
そうでないと、周りを困らせてしまうに違いないから。
1時間くらいかけて話した。
前と同じってわけにはいかないんだよ。
行けるところへはなるべく行こう。
できることはやってみよう。
私も頑張るから。
でも、ぜんぶ、は無理なんだよ。
お母さんの体のことと、周りのひとたちのことと、両方考えて、折り合いをつけてやっていかなくちゃいけないから。
ごめんね。
「・・・・・・・・・・。」
母は黙ってしまった。
長い長い沈黙のあとに口をひらいた。
「すごーく、悲しい。」
うん。
悲しいね。
私も悲しい。
だけど、今は無理でも。
来年にはもっと立位が上手になって、もっとできることが増えて、今は無理なことが、来年にはできるようになってるかもしれないよ。
あせらずに一つひとつやっていこう。
母は本当に寂しそうだったけど、とりあえず理解できたのだと思う。
納得したかどうかはわからないけど・・・。
ここまでが昨夜のことで。
今日はその合宿に昼間だけ参加してきた。
母は(半分しか読めないけど)楽譜を持って、ずっと練習を眺めていた。
小さくてやんちゃだった生徒たちがいつのまにか上手に弾けるようになっていることに感動していた。
それでもメンデルスゾーンの難曲を聴きながら、母はじれったそうに
「私は小学生のときにソロを弾いたのよ。
何度も弾いたから、こうするのよって教えてあげられるのに、この手さえ動けば」
とつぶやいていた。
ちなみに。
帰宅後、オヤジに今日はどうだった?ときかれて
「楽しかったよ!」
と母は即答。
泊まらなくて大丈夫だったの?という要らぬ問いには
「お母さん(十数年前に亡くなった祖母)に『泊まらないほうがいい』って言われたから」
と答えた。
幽霊が説得してくれたんだろうか。
ダイエットのためチョコレート断ちを始めたのでテンション低めです。
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