今日の母はわりと調子がよかった。
相変わらず囁き声しか出ないけど、こんなことを言った。
「あんたがいてくれて良かった。
お父さん一人だったらパニくってたわ」
「ほんまやわ!」
私は激しく同意した。
「でもお父さん今でも十分パニくってるけどな!」
母が入院して何がいちばん大変かって、家事でも妹の介護でも病院通いでもなく、何より親父の世話なのである。
かつて祖母が嫁である母にむかって
「こんな息子でごめんね。
なんにもでけへんボンボンに育ててしまって」
と謝ったくらいだ。
放っておくと風呂にも入らない。
服も洗濯にださない。
ぱんつすら替えない。
ぱんつくらい自分で替えてくれ、親父。
ただ、隙あらば競輪場へ遊びにいっちゃうことだけは、ちょっと罪悪感を感じているらしい。
このあいだは帰りにケーキを買ってきた。
箱をあけてびっくり。
生クリームのショートケーキが10個!
「なんぼほど買ってくるねん!」
思わず大きな声をあげた。
我が家でケーキを食べるのは私ひとり。
いくら甘党でもひとりで10個も食べられるわけがない。
父はたじたじとなって
「いやあの、おまえが甘いもんほしいかと思って・・・」
「10個もいらん!」
おいしい店のケーキならまだよかった。
残念ながら親父が買ってきたのは、安くてまずいので有名な店のケーキだったのだ。
だいぶ頑張ったけど食べきれなかった。
「ちょっとお母さん、早くよくなって怒ってやってよ!」
私がいっぱい愚痴をこぼすと、母は楽しそうに笑っていた。
笑い事じゃないから!
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